コルカタ駐在日誌

駄目リーマンがインドのコルカタに赴任した。日々の生活を綴り、たまにリーマン社会の闇をえぐってみる。

今日、ひとつの縁を断ち切った。

相手に最後のメールを書く。
『貴方の心は、新しい誰かが満たしてくれるでしょう。
俺の役目は終わったので、消えることにします。
今までとても楽しかった。 本当にありがとう。お元気で。』

アカウントを削除した。 
終了。

その人物「A'」は、2年前から毎日メールを送ってくるようになった。
まるで日課のように、毎日欠かさず。
内容は、ほとんどがA'の自分語りだった。
私から話題を振ったこともあったが、スルーされるか、興味ないと却下された。
A'主導の一方通行的なやり取り。
それでも毎日、A'は何通もメールを送って来、忙しいときでも私は必ず返信していた。
面倒に思うことも無かったわけではないが、それはそれで結構楽しかったと思う。

日本にいるうちは、それでよかった。
ネットはすぐに繋がり、同じ空気感を共有できる。

だが私がインドに来てからは、これまでのリズムが少しずつ壊れて行った。
時差。
繋がらないネット回線。
そして私自身の多忙。

私はいつしか、A'の一方的な自分語りやディープな趣味話に、辟易するようになっていた。
普通のやり取り、自然な言葉のキャッチボールなら、全く苦にもならない。
しかしA'とはいつも一方通行だったので、いつしかストレスに感じていた。

ある日、ひどい風邪を引いて、返信を翌日回しにしたことがあった。
『返信が遅くなってごめん。熱を出して寝込んでました』 と送ったが、A'からの返信は、いつもの趣味話と自分の話だけだった。

A'は普通ではないと確信したのは、この時だった。
毎日やり取りしてきた相手に、「大丈夫?」の一言も言わない人間がいたことは、驚きだった。

私はA'にとって、単なる吐き捨て場に過ぎなかったのだと悟った。
A'は私を対等に見ていない。
A'とのやり取りは、もう止めるべきだと思った。
これまで通り律儀に返信を続けつつも、私はA'を切るタイミングをうかがうようになっていた。

やがてチャンスは来た。
少し前からA'は、趣味関係のSNSに没頭するようになり、私へのメールは少しずつ減って行った。
これまで毎日来ていたメールは、1〜2日おきになり、やがて来なくなった。

A'が参加しているSNSでは、24時間、いつも誰かがA'に「いいね」を送る。
私とメールするよりも、価値が高いと思ったのだろう。
より多くの人間が、A'の承認欲求を満足させてくれるから。

今なら、関係を切っても後腐れは無い。
A'側から音信不通にしたせいだと、言い訳も立つ。

私はためらいなく、最後のメールを送信した。


そして今。
私は虚無感と疲労感の中にある。

私は、A'の話を真摯に聞き、共感したかっただけだ。
A'と良い関係を長く築きたかっただけだ。
だがその意図は、伝わりにくいものだ。
真面目に対応したつもりでも、相手と良好な関係を作れるとは限らない。
むしろ、愚痴のはけ口や八つ当たりに利用されて終わることも、少なくない。
今回のように。

ストレスのはけ口にされやすい要素が、私の中にあるのだろう。
理由はわかっている。 私は被虐待児だったから。
大人になっても「私をサンドバッグにしてください」といった雰囲気を漂わせているのだろう。
人と関わるためには相手のストレスのはけ口になるよう、幼少期に刷り込まれたのだろう。

日本にいた時は、自分がはけ口にされていることを自覚できなかった。
どんな相手にも、誠実に向き合うべき。
嫌な相手から逃げることは、堪え性が無い。
そう非難されるので、できなかった。

日本社会は怖い。 一度誰かのはけ口になった人間は、死ぬまで皆のはけ口になり続ける。
我慢とか誠実とかの言葉で、意識を縛られてしまうのだ。

相手が私を対等に見ていないことがわかったら、すぐに関係を切る。
自分の心を守ることが一番。

インドに来て、やっとそのことに気付いたのだった。

静寂とは、金を払わなければ得られないものだ。
涼しい空気と同じく、貴重なものなのだ。

以下、愚痴。スルーOK。
一日中、気温約40℃の中、汗みどろの油まみれで現場監督してた。
脱水症状一歩手前で、ホテルに戻ってくる。
泊まってるのは、プラント傍の一泊1500ルピーの宿。
設備やサービスは、この価格から推して知るべし。
今日は土曜日なので、中も外も騒々しい。日付けが変わる頃になっても、ずっと騒いでる。
そういう客層。
明日も早いんだから勘弁してくれ…

外国人技術者たちは、普通は街の中の4〜5星ホテルに泊まる。
こういうところなら、もちろん静かに眠れる。

恨むなら自分を恨め。
4〜5星ホテルに泊まれるような超一流企業に就職できなかった自分を。
騒々しいくらいで眠れなくなる豆腐メンタルな自分を。

お目汚し、失礼しました。
つまらないことでやっかむ自分が情けない。


・・という捨て台詞を吐き、インドとの合弁を白紙撤回した企業は、60-70%にのぼるという調査結果が出た。
https://insideiim.com/why-do-indian-joint-ventures-fail-views-from-prabhakar/

インドの有名コンサルタントの先生がまとめたレポートの内容。
ざっくりと紹介したい。

実例1.Tata Docomo
むしろこちらの記事のほうがわかりやすい。
http://koneta.blog.jp/archives/5811978.html
http://toyokeizai.net/articles/-/161121

実例2. ランバクシー - 第一三共
こちらも、日本の経済誌に詳しく載っている。
http://toyokeizai.net/articles/-/30618
http://toyokeizai.net/articles/-/34803

上記2件をダイジェストにまとめ、ついでに日本からの新幹線輸出にも『地雷』が潜んでいると警告するブルームバーグの記事。
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/170125/mcb1701250500007-n1.htm

日本側企業は巨大なインド市場に大きな期待を寄せ、インド側は日本の投資と技術を呼び込もうと一生懸命袖を引く。
鳴り物入りで派手にJVや投資してみたものの、実際に走り出してみたら、日本企業にとっては『話が違う!』『聞いてないよ~』の連続。
インド市場で収益を上げるどころか、投資分を回収する見込みも立たず、巨額の損失を出して撤退・・という最低の結末。

なぜこんな事態に?
ハイデラバードのビジネススクールの先生は、3つの要因を指摘した。

要因1 文化・慣習の違い
これはいろんなところで指摘されている。
ビジネス慣習やマネジメント文化、あらゆるところが日印では大きく違う。
投資や契約の前に、十分な計画が練られておらず、最悪のシナリオまで考えていないこともあり。
インド側は、このプロジェクトはきっと儲かる、中東やアフリカやヨーロッパへの拠点ともなる、投資分は数年で回収できる・・などと、矢継ぎ早にいいことづくめを説明。
日本側は、それをすべて真に受けてしまう。冷静に一歩引いて、疑いを持って考えることが十分にできなかったケース。

日本だけが甘いと言えないこともある。
どこかで書いたかもしれないが、インド人は都合の悪いことは徹底的に隠す。それが巧妙すぎて、誰も見破られないケースもあり。
トラブルや欠陥の隠蔽などは日常茶飯事、悪いとも思っていない。そんなところを、私自身も何度も目撃してきた。
JVの話が持ち上がるとき、実はインド側の財務状況は大赤字だったりするのだが、日本人の前では1ミクロンたりとも、金の無い雰囲気は出さない。
知り合いの会社でも、親会社に言われてインド企業とJV締結したが、実情は大赤字で、一気に財務状況が傾いたところがある。
幸いにも、親会社のバックアップなどで損失補てんはできたが、赤字解消までに9年かかったとか。
JV話が進む中、インド企業の情報を取り、財務チェックも入れ、慎重にやってたはずだ。悪い話は一つも上がって来なかった。
なのにフタを開けてみると、不良債権や負債や赤字という名の魑魅魍魎がこんにちは♪・・って、これはホラーだと思う。
日本側からすると、なぜ正直に言わないんだ、詐欺ではないか、となるのだが、インド側にはそんな意識はない。
都合の悪いことを自分からぺらぺらしゃべるわけないでしょ、サインしたのはすべて合意した上でしょ?と言う。

要因2 エゴ
インド側の企業の代表は、日本側の担当者 - たとえば新規事業部長とか海外事業部長 - そういった立場の人々を見下すのだそうだ。
これは私も遭遇したことがある。非常に不愉快である。窓口担当の心証を悪くさせて、誰得?
私は世界数カ国のJV案件にかかわってきたが、こういう態度を取るのはインドともう1カ国だけ。
カーストとか、外国人には負けないぞ!みたいなプライドがあるのだろうか?
あったとしても、それを露骨に出すのは一流のビジネスマンとは言えず、子供じみている。
日本人からすると意味がわからない。

要因3  ルールを守らない
インド人がルールを守るようになったらそれはもうインドではなくなるが、ビジネスではそうも言ってられない。
インドでもここ数年、コンプライアンスの概念が浸透しつつある。レポートによると企業の76%は、賄賂や腐敗防止のためのプログラムを実施しているとか。
それ自体はとても良いことなのだが、でもそれはあくまでもペーパーの上。
儲かるためなら何をしてもよい、という意識はまだ残ったまま。つまりコンプライアンスの意識はまだ完全には浸透していない。
それを外国企業とのJVでもやってしまうので、パートナーとの信頼関係が崩れるもとになるのだ。
E&Yは、『多くの企業が、詐欺・贈収賄・腐敗のリスク管理に苦労している』と指摘している。

以上の要因は、『インドJVあるある』の典型例に過ぎない。
もっとおぞましい実例は、たくさんあるだろうと思う。


ハイデラバードのビジネススクールの先生は、こう締めくくる;
JV設立すると、新しい技術や市場を得られたりで、インドに得なことが多い。
なのに、インド側の意識不足でみすみす機会損失するのはもったいない。
今のインドは、外資系企業とのJVに依存しないと世界的プレイヤーになれない状態なのに・・。

まことにごもっともで、インドの企業家やビジネスパーソンたちがみんなそれを理解してくれたら、どれだけやりやすくなるだろう。

インド人の短所はいろいろある。
ビジネスに関係するところでは、
- 目先の利益優先
- 後先考えない
- 計画的にできない
- 自分のことしか考えない
- 相手の話は聞かない
- 都合の悪いことは隠す
・・って、日本人にとってはどれも無理だらけではないか。
そういうところがJVをぶっ壊し、外資企業から『インド人嘘800』と言われ、自分たちの首を絞めることになるのだが。
でもそれは4000年経っても直らないので、これからも直る見込みは薄いのだろうな・・

そういう短所はスルーし、インド人が騒ごうとも、淡々と自分たちのほうに利益を引っ張る。
そのくらいの鋼メンタルが無いと、インドでビジネスなんてできないってことか…
大丈夫か日本企業。

ちなみに。
インド商人は中華商人やユダヤ商人と並んで、強かだと言われてるが、それは少し違うと思う。
インド人の辞書には、深謀遠慮という言葉はないのではないか?
策を弄しても底が浅いし、子供っぽい。
なのであまり怖がる必要はないが、言ってることの一言一句まで、ひたすら疑ってかかるのが無難かもしれない。


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